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* * * * * * * * * *
----- Look for it -----
----- Find me -----
I come to a town, and it is ... shop ...
Because I know it, as for you, ...... is early...


「〜始〜」



「   」
何を?
「      」
何処で?
「  」
どうやって?
「               」
俺が?
…………。
「なんだったんだ?」
 何を見るとも無しに、ギイナは辺りを見回した。今しがた聞こえた声。あれは一体なんであったのか。それは脳内に甘く痺れるように響いて消えた。跡形もなく全て。覚えているとすれば、それを聞いていたという感覚だけ。それすらも今頭を振っては消えてしまいそうだ。思い出そうとすればするほど頭を振りたくなる衝動。
 テレビでも見よう。結局全てを忘れ振り返ると黒いウィンドウに向き直った。いつまでもなれない起動音を聞いたあと心地よい会話が聞こえてくる。知らない人たちの会話は好きだ、と思う。それが自分に関係があったとして、ないとして、人の声ほど心を落ち着かせるものはない。紹介しているのが使えない万能包丁だとして販売員の言葉に一喜一憂。おまけにまな板なんかが付いた日には万々歳だ。要らないフードプロセッサーより大分いい。枕一つを買ってもう一つがおまけで着いてくりゃこの上ない倖せ。どうせならでかい枕が欲しいけど。そんな我侭は言っちゃいけない。司会者の似非笑顔がそう笑う。
 確かに楽しんでいたはずなのに、何となく今さっきの声を思い出すようでまたも鉛が押しあがってくる。腸から、胃から、喉から、口へと脱出を試みる。だけどそれを何とか飲み干してギイナはリモコンを押した。全駆動掃除機さようなら。無意識の先に映るのは久しぶりに目撃するニュース。
 簡単に言ってしまえば「隣町の市長、倒れる」。新聞のキャッチセールスなんかではこんな感じだろう。その端の方に「国家権力者の没落!」「国内紛争勃発の危機!?」なんて台詞もあっていいかも知れない。それくらいの、遠い出来事。
 さぁ、出掛けようか。ギイナは部屋のスイッチを全てオフにした。空はむかむかするのが勿体無いくらいの広い青。久しぶりのオフだから仕事の連絡なんか全て無視だ。携帯の電源を切ろうと硬質なそれを手にした瞬間、電波を受信した感覚。勘のいい自分に溜め息を吐きながら震えだした彼を宥めた。電話でないことに少しほころぶ。
 知らないアドレスの「No title」。無題と証した通知なのか面倒だっただけなのか。なんてそんな難しいことは知らない。どうせ誰かの気まぐれだろうと笑みをこぼすが、それは後におかしく歪んでいった。文面が可笑しい。
「『アナタに店を任せます。』?」
 遠まわしな迷惑なら何度も被ってきたが此処まで率直なものも珍しい。広告でもなく交友関係でもなく、新手の商売だろうか。疑わせることを最初から警告しているような。騙されている側を笑わせるためだけに作ったような。ギイナは少し楽しくなってスクロールを続けた。
「えーと…『隣町の3番地7−5。断るか受理するか、全てはアナタ次第です。』ねぇ…」
 隣町といえば、さっきニュースで見た市長が倒れたところではあるまいか。そんな街に行ったとしてどうなると言うのだろう。市長問題で大変なのではないのだろうか。意味が解らない。当初の目的などとうに忘れギイナはメールに集中していた。笑えるはずのその文面が、何故かひどく心に留まる。あぁいけない、これこそが迷惑の代名詞。勿論返事なんかはせずに、ギイナは街へと足を向けた。見慣れた、いつもの街に。
 無くなった調味料、一週間の食材、暇つぶしに服飾店への冷やかし程度。ギイナは明日からの活力を十分に満たし日が暮れる頃帰路に着いた。両手に紙袋を抱え古ぼけた街を進む。途端震えだした太ももに、一瞬どきりとして辺りを見回した。いそいそと足に手を伸ばし、見慣れた通信器具を取り出す。題名はまた「No title」。知らないアドレスに、ギイナは妙な期待を覚えてプッシュした。
「『アドレス変えました〜。登録宜しく★』……宜しく、星…?だとぉおぉ!!?」
 期待した俺が馬鹿みたいじゃないか!!と、ギイナは瞬時腕を振り上げた。が、その腕を振り下ろした後かかる面倒を考えると馬鹿にされた方が安い?などと思う自分にも何となく気落ちした。結局吐いた溜め息で怒りをすべて放棄して、原因のメールも無視することにした。忘れていなければ、明日にでも登録し直すだろう。気のせいかさっきよりも項垂れた影を引き連れてギイナは一歩、二歩と町から遠ざかる。しかし何となく渦巻いていく、言い知れない雑念。暫時躊躇して、ギイナはもう一度携帯を手に取った。慣れた手つきで、二件前の受信文を見直す。
「『アナタに店を任せます。』……『アナタに店を』……」
 がさりと紙袋が啼いた。締め付けた腕に意識はなく、トマトが息苦しさに赤黒さを増していく。周りの人影は皆無。
 ギイナは意識を放棄した。携帯を元の位置に戻してその足でまた街へと向かう。手元の荷物は少々不恰好だが今からやろうとしている行動に比べればどうという事はない。一週間の摂取量は多いはずなのに自然と足は軽々と運び、よもやスキップでもしようかというところ。何だか楽しいぞ、無計画上等だ。ギイナは思わず口笛を吹いた。向かう先は街の物件屋。
「何?契約を解除して欲しい?」
「はい、なるべく早めに。できないですか?」
「いんや、今日にでもできるけどいきなりどうしたんだい?良い物件でも見つけたのかい」
「えぇ、それはもう」
「へぇそんなに。そんなのがあったら是非紹介してもらいたいもんだがね」
「それは無理でしょう。だって俺が貰っちゃったんですもん」
「まぁそうだな。ほいよ、これにサインだけだ」
「有難う御座います」
 上手いのか汚いのかどちらとも言えない文体でギイナは契約破棄をする。きっと大丈夫だ、この叔父さんならいつでも俺を招きいれてくれる。妙な自信などを浮かべつつ、丁寧に店に礼をすると紙袋を抱えた。大きな荷物は二の次で、とりあえずはその住所に行ってみよう。明るい夜色に手荷物のナスが目立ちたがる。歩行速度は快調だ。



第二話に続く。


OK, it seems to be a dance.
Try to jump by a fair dance on this board.