contents
[ character ]
[ main volume ]
[ extra ]
[ main ]
[ top ]
* * * * * * * * * *
----- Look for it -----
----- Find me -----
I come to a town, and it is ... shop ...
Because I know it, as for you, ...... is early...


「〜店〜」



「うっへぇ!何だコリャ」
 紙袋を両手に抱え、少しがに股気味に立つ男は奇声を上げた。と言っても意味が成り立たない訳ではないが、成り立ったところで深い思い入れなど在りはしない。骨髄反射的に声を上げたと言う表現が一番かも知れない。その驚きと言うのも今まで何度か経験しているけれど順位をつけるなら2位だと思う。1位は中二の時の出来事。これはちょっと割合。
「いや、店って…いや店だけどなぁ…」
 第一印象は「壊れかけ」、じっくり見た後にもやっぱり「ぼろい」、近づいてみると「老舗」と思える外見。内装はまだ不明。窓は大きく、はめごろしの場所もあり。玄関は申し訳程度の近代的な作り。横幅は大きく、一人で住むには寂しすぎるくらいだが、大手老舗としては標準くらい。古い設計の癖に二階建て。色はちょっとくすんだ茶色。
 大通りから入り組んだ道を更に進み路地裏の突き当たりにあるこの店こそがメールで通知された住所だった。一軒先に行くと住所より先に行き、逆に行くとまた以下似分。向かいに店らしきものもないし、と青年は深い溜め息をついた。まずは店の掃除からだろう。
 お邪魔しますと律儀に挨拶し、ギイナは店へと足を踏み入れた。貸し店舗ではないのか鍵はかかっておらず、少し拍子抜けする。
「お、でも悪くない」
 外装に比べ内装はましなようだった。レトロとでも表現すればいいのか古風な雰囲気がぴったりくる。大きな窓から入る月明かりが床を照らしだしそうそう汚れていないことも判明して更にご機嫌は絶好調。もしや失敗ではなかったかも知れない。せっかちにそう判断しつつギイナは蛍光灯をオンにした。押してからの疑問は接続されているのか否か。しかしその答えを返すように夜気に慣れた眼球を明るさが押し潰す。急いでギイナは瞬きを繰り返し頭を振った。代わりに叩き込まれるのは見たこともない光景。
「お、おぉ、おぉぉ〜?」
 目の前には数を数えるのも時間の無駄と感じるくらい大量な骨董品が並べてあった。壷や瓶、はたまた屏風から障子画から人形まで。ありとあらゆる骨董と呼ばれるもの総点が置いてあるくらいの図式。確かに少し、気が遠くなる。それでも圧倒より興味の念が沸きギイナは恐る恐る奥へと足を進めた。一部屋はこんなに広いはずなのにどうしようもない圧迫感を覚える。品々に囲まれ店の中央に立った瞬間、ギイナは息を詰めた。
 恐ろしい。瞬時頭の中が一杯になる。壷が。瓶が。屏風が。障子が。人形が。人形が。障子が。屏風が。瓶が。壷が。ラジオが笑う。蓄音機が啼く。時計は鐘を鳴らし、蠅捕機のぜんまいが回りだす。武具甲冑は踊り廻り火縄銃は溜め息を吐いた。陶磁器は歌う。ライターが吐息で誘う。
「な、な、な、んな訳あるか俺のばっきゃろー!!」
 夜にも余る大きな声を上げギイナは何度も何度も頭を振った。
「ラジオが笑うか!甲冑が踊りだすか!食器が歌うかーーー!!!」
 想像とはいえ一瞬でも恐れを感じた自分に腹が立つ。それに羞恥も相まって暫し固まった後溜め息を吐いた。回りに聞かれていたらと思うと涙が出ちゃう。男らしからぬ言葉を呟きつつ、反してギイナは首を傾げた。夜夜中こんな時間だと言うのに文句の一つも言ってこない。確かに今まで空き家であったのだから知人などはいないだろうがどうしたのであろうか。
 ギイナは少しばかりの疑問と共に店先に顔を出した。身近な静寂から遥か隔絶した大通りあたりからざわざわと声がする。隣町の行事など把握している訳もなし、祭りでもあったのだろうか。こんな中途半端な時期に何を祝うと言うのだろう。それは社にしろ街にしろ違うからどうとでもなるが、それでも解せないのはこの静けさだった。切り取られた空間だけの騒がしさ。ギイナは少しの不安と多大な興味に引きずられ街へと足を向けた。店に鍵はかけない。元々かけてなかったし、盗まれたとしてもきっと気づかないだろう。被害者は、自分ではない。
 歩き慣れない街を来た時の記憶に頼り逆走する。その思考の少し余ったところで朝のニュースを思い出す。「市長倒れる」「国内紛争勃発の危機!?」新聞の見出し的解釈。他もろもろ。しかしそれにしたって危ない言葉ばかりが浮かんでしまう。まさかもう国家対抗戦力でもできている訳はないだろう。気楽にいこう、気楽に。
 勝手に胸を撫で下ろしようやく見慣れた大通りに出た。次を曲がれば太い道が見える、そう考えた瞬間、寒気が走った。先ほどとはまた違った恐ろしさ。今度は物理的な何かが腹の中で混ぜられる。それでも確かめてやろうとひょっこりとおりに顔を出すとあぁやっぱりと呟いてしまった。下ろした胸がまたせり上がる。古い言い方でいえば「荒くれ者」新生国語辞典で選べば「賤民」とでも言うのだろうか。つまり結局は犯罪者らしき人間たちが其処にたむろっていた。思わず小路の陰に身を隠してしまうというひよっ子魂。こんな自分では此処にいることさえもままならない、寧ろおやつ代わり!?ぐるぐると頭の中で巡る弱虫根性丸出しの考えに少しばかり自分でも呆れながらギイナはゆっくりと更に逆走を始めた。つまりは店にカムバック。二、三度角を曲がりやっと静けさの領域にたどり着いた頃、どうやら止めていたらしい呼吸を再開する。落ち着きを取り戻した脳裏でもう一度携帯を取り出し受信ボックスも開かずに涙ぐむ。
「暴動起きるの早すぎる気がするんですけど、発信者さん……」
 もう破棄してしまったマンションを思い浮かべ明日は早く店を出てやろうと決心したのだった。




第三話に続く。

OK, it seems to be a dance.
Try to jump by a fair dance on this board.